三曲

　　現在では、箏と三弦と尺八の合奏のことを、「三曲合奏」ということがあります。これから、箏曲・地歌・尺八音楽全体を総称して、「三曲」ということもありますが、どうもこの言葉は、誤解を招きやすいようです。

　江戸時代には、そういった意味で使われることは、あまりなかったようです。そもそもの意味は、文字通り、「三つの曲」という意味です。ですから、箏曲の三曲といえば、箏曲の始祖八橋検校が作曲した箏曲の中で、最も重要な三つの曲、すなわち「四季の曲」・「扇の曲」・「雲井の曲」の三つをいいます。

　文楽や歌舞伎の「阿古屋の琴責」の三曲は、阿古屋という女性が演奏する三つの曲をいいます。たまたま、阿古屋は、この三つの曲を、箏・三味線・胡弓の三つの楽器で、ひとつずつ演奏します。そこで、箏・三味線・胡弓の三つの楽器の合奏を、「三曲」というと思ったり、この三つの楽器の昔楽の総称として「三曲」というなどと、錯覚しがちなのですが、そうした用い方は、少なかったのです。

　ただ、江戸時代には、たしかに箏と三味線と胡弓の合奏は、盛んに行われたようで、そのようすを絵に描いた例もたくさんあります。しかし、箏と三味線と尺八または箏と尺八と胡弓の合奏の例も、なくはなかったようで、そのようすを描いた絵もあります。それらをすべて「三曲合奏」といったようです。

　また、箏曲の中には、尺八とも胡弓とも、そして三味線とも、ほとんど合奏することはない曲もあります。箏曲の始祖八橋検校が作曲した「組歌」形式の曲などは、箏だけで演奏しますし、その後もしばらくは、そういう曲しか作られませんでした。三味線にしても、八橋検校も弾いていた当時の本格的な曲は、やはり「組歌」形式のもので、これらも三味線だけで演奏されました。こうした三味線の曲を、「本手」ともいいました。

　尺八にしても、虚無僧（こむそう）が吹いていた曲は、尺八だけの曲で、やはり箏とも三味線とも、合奏するということはありません。胡弓のほうは、古典の胡弓に、三弦の胡弓と、四弦の胡弓とがありますが、特に四弦の胡弓には、胡弓だけで演奏する曲が、今でも残っています。尺八にしても、胡弓にしても、その楽器だけで演奏される曲は、「本曲」といってます。

　このように、それぞれ単独に演奏されて、合奏することがない曲もありますから、これらの音楽を、「三曲合奏」の音楽というように考えることはできません。したがって、「三曲」と総称することにも、場合によって連当でないことがあります。

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