三弦と尺八の流儀

　三弦にも、流儀があります。八橋検校の頃は、その系統を、箏曲同様に「八橋流」といい、これに対して三味線の組歌を完成させた柳川検校（？〜一六八○）の系統を「柳川流」といいました。三弦の「八橋流」は絶えてし まいましたが、「柳川流」のほうは、京都にずっと伝承されました。「柳川流」では現在でも、前に述べた「柳川三味線」という、たいへん細い樟の三弦を使用します。

　これに対して、大坂では、箏曲の生田検校の頃に、野川検校（？〜一七一七）が、「柳川流」とは別に三味線の組歌を整理しました。この系統を「野川流」といいます。「柳川流」の三味線組歌は、ごくわずかしか現在に伝わっていませんが、「野川流」のほうは、その全曲が、完全に現在まで伝承されてきています。関西系の「生田流」の箏曲家は、「柳川流」か「野川流」の三弦家でもあるのです。

　組歌以外の三弦曲は、「地歌」といわれる三味線音楽ですが、そのなかの「手事物」は、前に述べたように箏が合奏されて、「箏曲」ともいえます。しかし、それ以外の曲は、箏が合わされたりもするのですが、どちらかというと三味線伴奏の歌曲としての性格が強いので、「箏曲」というよりは、「地歌」の三弦曲といったほうが適当なことが多いようです。この「地歌」の三弦曲については、別な機会に、詳しく説明したいと思います。

　さて、尺八にも現在では流儀があります。よくいわれるのは、「琴古流」と「都山流」の対立ですが、これも、この二つの流儀が、初めから対立していたものではありません。

　「琴古流」のほうは、それまでの普化宗の虚無僧の吹く尺八が、普化宗の寺院ごとに、ばらばらであったのに対して、初代の黒沢琴古（一七一○〜一七七）が整理して、統一的な「本曲」を定めたのに始まり、この系統の人たちが、明治になって、箏曲に尺八を合奏させることを盛んにしたのです。

これに対して、「都山流」のほうは、明治の末に、初代の中尾都山（一八七六〜一九五六）が、新しく尺八の独奏曲や重奏曲を作曲したのに始まります。中尾都山の作曲活動は、箏曲のほうの明治以後の新作活動に匹敵するもので、その作品（これも「本曲」といっています）は、明治以前の古典音楽とは、性格を異にします。ただ、「都山流」の尺八演奏家も、箏曲に尺八を合奏させることを行いますので、そうした面では、「琴古流」と対立する流儀であるともいえます。

　楽器そのものも、「歌口」ともいう、息を吹き込む部分の形状が、この二つの流儀では遣いがあり、また、演奏法などにもさまざまな相違があります。

　なお、「都山流」から派生した流儀もありますし、箏曲と合奏することは行わず、普化宗以来の伝統を守っている尺八家もあります。そうした人々の中には、「明暗流」などと名乗る人々もあります。

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